参考 中国のナノテクノロジー・材料分野の特徴(2023年)
ここでは、どの研究開発領域で中国が世界を牽引しているか、逆にどの領域で中国が世界から後れを取っているかを述べたい。
使用したデータはJST/CRDSの2023年俯瞰報告書にある記述であり、この記述を元に林がとりまとめている。従って、以下の内容の文責は林にある。
1. 中国の優れた領域
(1)環境・エネルギー応用~分離技術
・他の国・地域との対比
米国、欧州は◎◎、日本は○○、韓国は○△であるので、中国は米国、欧州と並び世界トップレベルにある。
・領域の定義
分離技術とは、混合物から目的成分を取り出す、または不要物を取り除く技術に関する研究開発領域である。
・中国が基礎研究で◎となった根拠
膜分離のトップ誌であるJournal of Membrane Scienceへの掲載数は、8年間で約4倍と急増している。ゼオライト膜による脱水技術やCO2からの合成ガスの研究が活発である。
・中国が応用研究・開発で◎となった根拠
大学からスピンアウトしたベンチャー企業などが大学隣接地域に集積化されている。高分子膜、水素分離やゼオライト膜の実用化が進んでいる。
膜反応器が実プロセスに10か所以上で採用されている。
(2)バイオ・医療応用~人工生体組織・機能性バイオ材料
・他の国・地域との対比
米国は◎◎、欧州、日本、韓国は○○であるので、中国は米国と並び世界トップレベルにある。
・領域の定義
生体および生体構成成分(組織、細胞、体液、核酸、タンパク質など)と相互作用して利用される材料お
よびその構築物を追究する研究開発領域である。
・中国が基礎研究で◎となった根拠
国策による人材の育成・獲得戦略、大規模な資金投入、研究環境・施設の充実化などが実を結び、世界トップレベルの研究が進められている。
トップジャーナルへの掲載論文数も大幅に増加しており、国際的な存在感の向上が顕著である。
バイオテクノロジーや合成生物学の研究開発に注力がされており、その材料分野への利用を目指す研究センターも世界に先駆けて設立されている。
・中国が応用研究・開発で◎となった根拠
極めて大きな国内市場、政府・地方自治体による多層的な政策・財政支援を背景に、実用化研究・応用研究がスピード感をもって進められている。
特に、高性能医療機器は、製造強国を目指す政策である中国製造2025の中で重点領域に挙げられたことから、国内製造向けた開発が行われている。
異業種からの参入、新興分野への挑戦意欲も高く、スタートアップ投資も活発である。
(3)社会インフラ・モビリティ応用~磁石・磁性材料
・他の国・地域との対比
欧州、日本は◎◎、米国、韓国は○○であるので、中国は欧州、日本と並び世界トップレベルにある。
・領域の定義
モータや大電力用途などのパワーエレクトロニクスに関係の深い強磁性材料を取り上げる。強磁性材料には保磁力の高い永久磁石材料と、保磁力がゼロに近い軟磁性材料がある。
・中国が基礎研究で◎となった根拠
基礎研究分野でも大学等の研究設備面ではほぼ日欧米と同等。研究人口では圧倒しており、研究の質は着実に向上。
研究テーマは、実用的・現場的なものが多く、突出したレベルには至っていないが、総合的に見れば脅威と言える。
・中国が応用研究・開発で◎となった根拠
モータの電磁気設計等の研究数は非常に多い。その中から斬新なものが生まれる可能性があり、脅威ととらえるべき。
(4)物質と機能の設計・制御~次世代元素戦略
・他の国・地域との対比
米国、欧州、日本は◎◎、韓国は△○であるので、中国は米国、欧州、日本と並び世界トップレベルにある。
・領域の定義
産業的観点からの重要性のみならず、元素の新たな機能や隠れた効果を探索して新材料設計に活かそうとする、科学的洞察をベースとして産学連携・異分野融合を促進する取組みである。
・中国が基礎研究で◎となった根拠
「国家レアアース機能材料イノベーションセンター」の設立により、戦略資源であるレアアースを使って磁石、発光体、合金など高機能材料を開発し、自国のハイテク産業を強化しようする動きが活発化している。
・中国が応用研究・開発で◎となった根拠
「レアアース管理条例草案」の発表や、国有企業「中国希土集団有限公司」の設立など、レアアースのサプライチェーン全体を統制し、レアアース新製品、新材料、新技術の研究開発と産業化を目指した取り組み活発化している。
2. 中国の後れている領域
(1)共通基盤科学技術~微細加工・三次元集積
・他の国・地域との対比
米国、欧州は◎◎、日本は○◎、韓国は○○であるので、中国は主要国の中で最も後れたレベルにある。
・領域の定義
シングルナノメートルレベルまでのシリコンの微細加工プロセスの高度化および三次元集積を実現する研究
開発領域である。
・中国が基礎研究で△となった根拠
欧米や日本を追う状況に変わりはないが、大学からの研究発表がみられるようになり、近い将来、研究者や研究費の増加で基礎研究が活発化していく可能性がある。
2018年からナノインプリント技術の研究開発がブームを迎えており、2019年には論文発表件数で世界トップに躍り出た。香港大学、南方科技大学、天津大学、中国科学院、大連理工大学、南京大学、厦門大学などから多くの発表がなされている。
ALD・ALE関係はALD Conferenceでの発表件数から見ても、まだ件数は少ない状況である。
・中国が応用研究・開発で△となった根拠
各種加工技術関連装開発、プロセス技術開発、材料開発が積極的に進められており、発表文献数にも伸びがみられる。
ALD・ALE関係での中国企業の発表は、ほとんどみられていない。しかし、微細加工技術に関する研究開発を積極的に進めている。
RISC–V展開の状況もあり、中国製半導体の流通は増加。ファウンダリ保有の強みもある。