ここでは、CRDSの俯瞰報告書を元データとして、ナノテクノロジー・材料分野における各国・地域の科学技術力比較を記す。なお、直近のCRDS俯瞰報告書(2023年)についてはこちらを、科学技術力比較の手法については、こちらを参照されたい。
1. ナノテクノロジー・材料分野における国際比較(2023年)
(1)国際比較の結果
全体 米国>欧州>日本~中国>韓国
基礎 米国>欧州~日本>中国>韓国
応用・開発 米国>欧州>日本~中国>韓国
(註)「~」は左の国・地域が右の国・地域と同等であるか若干強いと言うことであり、「>」は「>」の左の国・地域が右の国・地域と顕著な差があると言うことである。
(2)根拠となるデータ
以下に示すのが、上記国際比較の元データであり、JST/CRDSの国際俯瞰報告から、筆者が独自の手法で作成したデータである。
○分野全体のデータ:下記の基礎のデータと応用・開発のデータを足し合わせ、分野全体のデータとした。
日本 | 米国 | 欧州 | 中国 | 韓国 | |
◎ | 27 | 52 | 37 | 18 | 1 |
○ | 27 | 6 | 21 | 36 | 35 |
△ | 4 | 0 | 0 | 4 | 22 |
× | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
○基礎のデータ:基礎フェーズでの国際比較表の◎、○、△、×の個数を数えた表である。
日本 | 米国 | 欧州 | 中国 | 韓国 | |
◎ | 16 | 25 | 20 | 11 | 0 |
○ | 12 | 4 | 9 | 17 | 19 |
△ | 1 | 0 | 0 | 1 | 10 |
× | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
○応用・開発のデータ:応用・開発フェーズでの国際比較表の◎、◎、△、×の個数を数えた表である。
日本 | 米国 | 欧州 | 中国 | 韓国 | |
◎ | 11 | 27 | 17 | 7 | 1 |
○ | 15 | 2 | 12 | 19 | 16 |
△ | 3 | 0 | 0 | 3 | 12 |
× | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
2. ナノテクノロジー・材料分野における経年変化
ここでは、ナノテクノロジー・材料分野の経年変化を示すため、それぞれの年のナノテクノロジー・材料分野全体の評価を数値化してグラフとしている。
(1)経年変化のグラフ
(2)根拠となるデータ
各年度の俯瞰報告の国際比較表の◎、○、△、×の個数を数え、既に示した手法で数値化したデータである。
2008年 | 2009年 | 2011年 | 2013年 | 2015年 | 2017年 | 2019年 | 2021年 | 2023年 | |
日本 | 1.00 | 1.00 | 0.99 | 0.92 | 0.89 | 0.92 | 0.89 | 0.86 | 0.83 |
米国 | 0.98 | 0.95 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | 1.00 |
欧州 | 0.94 | 0.95 | 0.95 | 0.95 | 0.95 | 0.97 | 0.94 | 0.95 | 0.91 |
中国 | 0.35 | 0.41 | 0.48 | 0.47 | 0.54 | 0.67 | 0.79 | 0.8 | 0.78 |
韓国 | 0.57 | 0.57 | 0.65 | 0.61 | 0.6 | 0.56 | 0.59 | 0.59 | 0.57 |
3. CRDSによる国際比較の表
下記に示した表は、CRDSの「研究開発の俯瞰報告書ナノテクノロジー・材料分野(2023年)」の97ページにある「図1.3.2–1国際比較表まとめ(第2章、29領域)」を元に作成した表である。
上記1.および上記2.のデータの一部となっている。表の中で、中国の科学技術力の強い研究開発領域を赤色でマークし、逆に弱い部分を黄色でマークした。元データであるCRDSの俯瞰報告書では赤色や黄色でマークした部分はない。
(註1)CRDSの俯瞰報告書の表を元に上記の表が作成されているが、俯瞰報告書にあるトレンドは上記の表には記載されていない。これは、このコーナーでの国際競争力比較にトレンドを使用していないからである。
(註2)CRDSの俯瞰報告書では、7つの区分で別々の表となっているが、上記の表ではこれを統合させ、一つの表としている。
4. 中国のナノテクノロジー・材料分野の技術力の現状
中国のナノテクノロジー・材料分野の国際比較の現状を、以下にまとめる。
○中国は、2010年代後半から急激にナノテクノロジー・材料分野の科学技術力を増大させ、現在は日本に徐々に追いつきつつある。今後は、世界トップの欧州、第二位の米国に追いつこうとする勢いがある。
○日本との関係で言えば、基礎研究は中国は日本より下位にあるが、応用研究・開発では中国は日本とほぼ互角である。
○中国が世界トップレベルにある研究開発領域(図で◎◎、赤でマーク)は次の4領域である。より詳しくは次ページの参考を参照されたい。
・環境・エネルギー応用~分離技術
・バイオ・医療応用~人工生体組織・機能性バイオ材料
・社会インフラ・モビリティ応用~磁石・磁性材料
・物質と機能の設計・制御~次世代元素戦略
○逆に中国が主要国から後れている研究開発領域(図で△△、黄色でマーク)は次の1領域である。
・共通基盤科学技術~微細加工・三次元集積