1. イノベーション(創新)に向けて

(1)知識創新プロジェクト

 1997年12月、中国科学院は共産党中央と国務院に対し、「持続的なイノベーション(創新)能力と優れた資質を有する人材が豊富な国は、知識経済発展の大きな潜在力を有するが、科学の蓄積やイノベーション能力に乏しい国は、知識経済がもたらすチャンスを逃すことになる。国のイノベーション能力は中華民族の前途と運命を左右する。中国は社会主義市場経済と科学技術の発展の法則に合致した国のイノベーション体系を構築し、21世紀の中国経済に持続可能な発展をもたらすため、強固な基礎を築かなければならない。」という考えを示し、「知識創新プロジェクト」を提案した。

 1998年2月、中国共産党総書記の江沢民が知識創新プロジェクトの試行を支持すると表明し、同年6月に国務院総理の朱鎔基が同プロジェクトを承認した。

 1999年1月、第5代院長である路甬祥は、知識創新プロジェクトを全面的に展開するにあたり、次の5大目標を提示した。

①科学技術目標:既存の強みを集約するのではなく、国家戦略を踏まえたニーズや世界のテクノロジー発展動向を踏まえて重点分野を確定する。

②体制改革目標:戦略目標を共有し、同一の地域又は学術分野に属し密接に関係するいくつかの研究所を再編する。知識創新プロジェクトの趣旨に沿った研究所を整備する。地方・企業・大学などと共同で研究機構を立ち上げ、技術進歩、企業の発展、地方経済、教育事業の発展に貢献する。

③業務改善目標:学術の自由を提唱し、イノベーションを奨励し、知識を尊重し、人材を尊重する。イノベーションを奨励する新たなメカニズムの構築と整備を図る。効果的な人事制度を積極的に導入する。イノベーション活動に効果的な評価制度を構築・整備する。傘下の研究機関の裁量権を拡充かつ保証する。

④人材育成目標:開放・流動・競争・優秀者選抜の原則に基づき、中国で最高のイノベーション人材を確保する。知識創新プロジェクトの第一段階では、1万名の常勤職員を確保し、流動的人材と常勤職員の比率を1対1以上とする。

⑤科学文化構築面の目標:特色のあるイノベーション文化を構築し、研究者の創造性を十分に発揮できる環境を創出する。若手が頭角を現しやすい文化を作る。清潔で美しい研究環境の整備を図り、研究支援サービスの利便性、効率性を高める。

(2)試行事業の開始

 1998年12月、知識創新プロジェクトの試行事業として数学・システム科学研究院が旧数学研究所、応用数学研究所、計算数学研究所及びシステム科学研究所を基盤として設立された。国際的影響力のある研究センター、ハイレベルの数学研究人材及び質の高い博士課程の大学院生を育成する教育拠点、国際学術交流の場としての役割を担うものである。

 1999年7月、やはり知識創新プロジェクトの試行事業として、上海生命科学研究院が発足した。同研究院の設立目的は、上海の研究機関が有する総合的な優位性と実力を十分に生かし、世界水準の生命科学研究拠点、バイオテクノロジー・新薬・現代農業技術などハイテク産業の発展促進のための拠点、関連分野における優秀な人材を育成する拠点として整備することにあった。同研究院は上海に設置されていた生物化学研究所、細胞生物学研究所、薬物研究所、生理研究所、脳研究所、植物生理研究所、昆虫研究所、生物工学研究センターを整理統合すると共に、新たに上海生命科学研究センター、国家遺伝子研究センター、国家新薬スクリーニングセンターなどを構成組織として設立した。

2. 創新2020など

(1)創新2020

 2010年3月に国務院でイノベーション推進に関わる会議が開催され、これまでの知識創新プログラムの進捗と成果を評価すると共に、イノベーション推進をより強化するため2020年までのプログラムである「創新2020」の実施を決定した。この創新2020は、国家発展の基礎を築き、産業振興のために先端科学技術を開発し、国民の健康を増進し、国民の安全や環境保護を強化し、国際競争力を強めることを目的とするものである。目標として一流の成果、一流の効率、一流の管理、一流の人材を追及し、10年間にわたる活動により科学技術イノベーション能力を強化するものである。

(2)三个面向と四个率先

 中国科学院の基本方針を示す言葉が、「三个面向」、「四个率先」である。

 「三个面向」とは中国科学院が目指すべき三つの方向性であり、世界の最前線の科学技術を目指す(面向世界科技前沿)、国家の重要な要求に応えることを目指す(国家重大需求)、中国国民経済の発展に寄与することを目指す(国民経済主戦場)ことを意味している。

 2013年7月、共産党総書記の習近平は中国科学院を視察し、中国科学院のこれまで60数年の業績を高く評価し、今後もさらに党、国家、人民のために絶えず革新するように励ました。そして「創新2020」をベースとして、中国科学院が「四个率先」を実施するよう指示した。「四个率先」とは、科学技術の抜本的な発展の実現(実現科学技術跨越発展)、イノベーション人材の国家的集積地の建設(建成国家創新人才高地)、ハイレベルの科学技術の国家的なシンクタンクの建設(建成国家高水平科技智庫)、国際的に一流の科学技術研究機関の建設(建設国際一流科研機構)を意味しており、これらを他の科学研究機関に先駆けて実施するというものである。

(3)率先行動計画

 この指示を受け中国科学院は、翌2014年に「率先行動計画」を策定し、具体的な内容として次の5つの分野で25項目にわたる改革案を提示した。5つの分野とは、次のとおりである。

○研究所の分類改革:中国科学院の傘下にあるおよそ百か所の研究所を、現在の科学技術研究開発に適合するよう分類し、必要に応じて再編する。
○研究開発の重点化:国の科学技術戦略に沿うとともに、世界の最先端分野で貢献しうるように中国科学院の持つ研究開発力を重点化する。
○人事制度の改革:中国科学院の人材に関わる人事制度を改革し、イノベーション人材を強化する。
○シンクタンク建設:中国科学院における改革の強化や研究開発成果の増強を目指し、高レベルの国家的なシンクタンクを創設する。
○中国科学院の開放:中国科学院のポテンシャルを最大限に活かすため、院の研究資源の共有を拡大強化し、国家や人民のためのサービス供給能力を高める。