Student Life at Universities in China
1. 勉学 Study
(1)受験生並みの勉学
日本の場合、大学に入ると後は卒業まで一種のモラトリアム状況にあると考え、部活やアルバイトに精を出す学生が多いが、中国では全く違う。北京大学や清華大学など一流大学に入れば、中国ではトップエリートと思われるが、それだけでは人口の多い中国で勝ち抜けるとは限らない。ほとんどの学生は、より良い職場、より良い処遇を目指して、さらに激烈な競争を展開する。その場合、学業成績が全てであるので、中国の大学生は受験生並みの勉強を継続している。
(2)勉学の場~図書館と空き教室
中国の学生は学生寮の自室は勉学をする場と考えておらず、ほとんどの学生は自室以外の場所で宿題などの勉学に励む。最も人気のあるのが図書館である。例えば北京大学などがある北京市は大陸性の気候であり、夏は暑く冬は寒い。その期間も長い。このため、エアコンの効いた図書館は勉学に最適であり、朝7時の開館前に学生の長い行列が出来る。図書館は夜10時まで開館している。
授業で使っていない空き教室を大学側が学生に開放しており、この空き教室も勉学の場として人気がある。どうしても見つからない場合には、キャンパス内外の喫茶室を利用することもあるが、料金がかかるため、しょっちゅうというわけには行かない。
(3)英語の学習
中国の学生は、それぞれの大学で良い成績で卒業しようと猛勉強するが、トップクラスの大学ではそれに併せて英語の勉強にも余念がない。学部を卒業した後、或いは修士や博士を取得した後、米国などの欧米主要国の大学に留学やポスドク修行に出かけるためである。
下図は、2019年までの海外留学者数と帰国者数の推移である。中国の経済成長に伴い、加速度的に増加したのが判る。
近年、英語を勉強する大学生に人気の英語塾がある。「新東方」という会社が経営している英語塾であり、新東方はニューヨーク株式市場に上場している。新東方の経営責任者の俞敏洪は1962年生まれで、北京大学を卒業後母校で教鞭を取っていたが、退職し1993年に新東方を設立している。北京大学に入る際には、高考を3度受験しており、日本的にいうと2浪で合格したのである。新東方は企業として大成功を収めており、中国全土の48都市に500ヵ所に上るラーニングセンターを有している。2011年までの統計で、1,500万人の学生生徒を教えたという。新東方が経営するラーニングセンターには、子供から成人まで色々な生徒が通うが、大学生にとっては米国の大学や大学院の共通テストとなっているTOEFLやGREのコースを受講する。
なお新東方は、近年の習近平政権の学習塾の締め付け政策で、苦戦が伝えられている。
下図は、2019年の米国大学院における博士取得者(非永住ビザ取得者)の出身国別ランキングである。中国が第1位で、2位のインドのおよそ三倍ある。
2. 日常生活 Daily Life
(1)学生寮
中国は広く、また近年まで公共交通がそれ程発達していなかった。このため、ほとんどの大学の学生は、大学所有の学生寮に住むことが前提となっている。これは北京のような大都会にある北京大学や清華大学でも例外ではなく、大学の近辺に住むごく一部の人を除き、ほとんど全ての学生は学生寮で生活している。
実家が比較的近くても学生寮に住む理由としては、利用料の安さもある。例えば北京大学では、古い寮で年間750元(約13,000円)、新しい寮で1,020元(約17,000円)に過ぎない(2014年5月現在、電気料は寮生の自己負担)。ただし、留学生はゲスト扱いとなり、約10倍の利用料を払うことになる。
学部学生は4人部屋であり、修士学生は3人部屋、博士学生は男性が2人部屋、女性が1人部屋である。利用料は全て同一である。
部屋にはベッドと机が一体となったものがおいてある場合が多く、4人部屋などの場合、カーテンで仕切って個室的に住んでいる。部屋自身は簡素なものであり、ガスや水道がないため、自室での炊事は出来ない。電話は自前の携帯電話であり、テレビも持っていない寮生が多くパソコンやタブレット端末でテレビ番組を楽しむ。シャワー室や洗濯機室などはフロアー全体での共用である。
多くの学生は、学生寮の自室で勉強することはほとんどなく、睡眠などの休養が中心である。
(2)食堂
寮の自室での炊事が出来ず、外部のレストランは比較的遠いため、学生は朝昼晩の3食をキャンパス内にある食堂で取るのが原則である。数万の学生が3食利用するため食堂の数は多く、北京大学で見ると8ヶ所にある。それぞれの食堂では、1階が学生用、2階が教官やゲスト用になっているものが多い。ゲスト専用の比較的高級なレストランもある。
学生はプリペイドカードを持ち、カフェテリア形式の食堂で好みのものを注文する。朝はかゆや肉マンなどが人気であり、一食3~5元(50~90円)である。昼食・夕食は普通の中華料理の単品や麺などが並び、一食10元(170円)程度である。ビールなどのアルコールも注文できるが、一階の学生用食堂ではほとんど飲まない。
教官は一階の学生用の食堂も利用できるが、多くの場合、2階のより高級な場所で食事をする。それでも平均20~30元(350~500円)程度である。また、誕生日などのお祝いの際には、学生も2階の高級な食堂を利用し、その場合にはアルコールを注文したりする。(これらの価格は2014年時点の数字である。)
(3)売店
売店もキャンパス内にあり、文房具、お菓子、飲み物、Tシャツや下着などの簡単な衣類、運動靴、かばんなどを販売している。本屋もあり、教科書を販売している。そのほか郵便局、銀行、変わったところではキャンパス内で移動に便利な自転車修理をするおじさんの店などもある。
学生が病気にかかった場合には、売店内の薬局で薬を買って直すが、より重い場合には、キャンパス内にあるクリニックで医師の診断を受ける。
(4)娯楽
部活もアルバイトもなく、親元から離れて寮生活となると、ほとんど娯楽というものがない状態での学生生活であるが、そこは若者であり、土日には時々はめを外すこともある。いつも食事はキャンパス内の学生食堂であるので、たまには学生同士でキャンパス外のレストランに出かけ、その後カラオケに興じたりする。料金は、高くても一人当たり100元(1,700円)程度で、学生同士では割り勘が原則という。
カップルが連れ立って歩いていたり、寄り添って座っていたりする光景を両大学のキャンパスでも見かけるが、こういったカップルでのウィンドーショッピングも人気であるという。また仲間同士が連れ立って、北京市内や近郊への小旅行に行くことも楽しみの一つである。
3. 課外活動、インターンシップとボランティア活動 Extracurricular Activities, Internships and Volunteer Activities
(1)課外活動
日本や欧米の大学では部活動が盛んである。日本の最高学府である東京大学でも、例えばボート部は全国の大学でも最強の部類に入るし、野球部は最近連敗を続けているが将来プロ野球選手となる人材を多く有する他の東京6大学のチームとそれなりに戦っている。米国でも、ハーバード大学やイェール大学などが属する「アイビーリーグ」は、アメリカンフットボールの強豪チームのリーグが転じて米国北東部の有名私立大学の連盟となったものであるし、英国ケンブリッジ大学とオックスフォード大学は、毎年春にロンドンのテムズ川でレガッタ競争を繰り広げている。
しかし、中国のトップ大学の学生は勉学が本分であり、欧米や日本の大学のように部活動に精を出すことは考えられない。
体育会系の活動のようなハードで高度なものでなくても、日本の学生はサークル活動として運動や文化活動にのめり込む学生も多いが、中国の場合はこのようなサークル活動も少ない。中国の大学では、休日となる土日に友人で集まり、テニス、バスケットボールやミニサッカーなどを楽しむ程度である。なお日本でポピュラーな野球は、中国ではほとんど行われていない。
(2)インターンシップとボランティア活動
部活動やサークル活動を余りやらず、ひたすら勉学に励む中国のトップ大学生であるが、インターンシップとボランティア活動には熱心である。
インターンシップというのは、夏休みの期間などを利用して中国の有力企業が会社のオフィスや工場に学生を招聘し、実地の教育を施すものである。会社側としては授業の側面援助と称しつつ、実際は良い学生に目星を付けて、将来自社に就職させることを考えている。一方、学生側は実地の教育を受けるとともに、あわよくば就職が内定することを期待している。
もう一つ熱心なのは、ボランティア活動である。四川大地震などが起こった際、学生は退去して現地に赴き、様々な活動を実施している。北京大学や清華大学の大学当局がこのボランティア活動の重要性を認識し、これを実践する学生に高い評価を与えるためといわれているが、それでもボランティア活動に専念することは大変良いことである。
なお、高考で失敗するなど様々な理由で北京大学や清華大学などの一流大学に入れなかったが、他の大学で意欲を持って勉学して優秀な学業を修めた学生は、修士課程や博士課程でもう一度一流大学を目指す。一流大学側はこれらの意欲ある学生を歓迎する。例えば、夏季休暇中にサマーキャンプを行って、全国から学生を集めて教育を行い、その中からこれはと思う学生に注目する。こういった活動も行われている。
(この項目 了)