ここでは、中国科学院の付属研究所の研究開発力について、国家級実験室配置状況での比較、大型研究開発施設での比較、NSFC面上項目資金獲得での比較を行った。

1. 国家級の実験室による比較

 中国政府は、国内にある大学や研究所を世界レベルの研究室とする施策を講じている。この施策の中で最も重要と考えられる国家研究センターと国家重点実験室について、中国科学院の付属研究所での設置状況を確認し、これを研究所の重要度の尺度として用いることとした。

(1)国家研究センター

 中国政府は2017年に、それまで「国家実験室」として準備を進めてきたいくつかの研究組織について名称を変更し、あらたに「国家研究センター(国家研究中心)」として発足させることとした。
 国家研究センターは下記の国家重点実験室に比較して人員などで数倍の規模を有しており、他国の通常の研究所と同レベルの規模である。

 この国家研究センターは、現在中国全土で6か所あるが、そのうちで中国科学院の付属研究所が関与するものは、次の3か所である。
○北京分子科学国家研究センター:北京大学と中国科学院化学研究所の共同
○北京凝集系物理国家研究センター:中国科学院物理研究所
○瀋陽材料国家研究センター:中国科学院金属研究所
 なお、これ以外に中国科学院所管の大学である中国科学技術大学が、合肥マイクロスケール物質国家研究センターを設置している。

(2)国家重点実験室

 国家重点実験室は、限られた研究資源や研究人材を特定の実験室に集中させ、世界水準の研究を実施させることを目指し、中国国務院が1984年に指定を開始した施策である。

 中国科学院の付属研究所でも、2021年時点で82か所の国家重点実験室が設置されている。この国家重点実験室の設置状況を確認し、これを研究所の重要度の尺度として用いることとした。
 中国科学院の附属研究機関で、複数の国家重点実験室を有するのは下記の通りである。

○3か所設置(5研究所)

・長春応用化学研究所  
・生態環境研究センター
・動物研究所
・微生物研究所
・遺伝・発生生物学研究所

○2か所設置(16研究所)

・力学研究所
・大連化学物理研究所
・上海有機化学研究所
・大気物理研究所
・地球化学研究所
・西北生態環境資源研究院
・広州地球化学研究所
・植物研究所
・生物物理研究所
・プロセス工学研究所
・分子細胞科学卓越イノベーションセンター
・精密測量科学・技術イノベーション研究院
・蘭州化学物理研究所
・上海マイクロシステム・情報技術研究所
・自動化研究所
・長春光学精密機械・物理研究所 

2. 大型研究開発施設による比較

 中国科学院は、同院や他の研究機関の研究者の利用に供するため大型の研究開発施設を有しており、同院付属研究所がその建設・運用を行っている。大型共用施設は、専用研究施設、共用実験施設、公益科学技術施設の3つのカテゴリーがある。

 ここでは、これらの施設に関与している中国科学院の付属研究所を確認し、これを研究所の重要度の尺度として用いることとした。

(1)専用研究施設

 専用研究施設(专用研究设施)は、特定の研究領域で世界的な研究成果を出すために建設・運用される施設を指しており、中国科学院のHPでは現在下記の12の施設がこれに該当する。

・北京電子・陽電子衝突型加速器(BEPC)  高エネルギー物理研究所
・蘭州重イオン加速器   近代物理研究所
・高効率レーザー物理実験装置(神光Ⅱ)  上海光学精密機械研究所
・全超電導トカマク核融合実験装置(EAST)  合肥物質科学研究院
・上海国家タンパク質科学研究施設  上海高等研究院
・天体望遠鏡(LAMOST)  国家天文台
・大亜湾原子炉ニュートリノ観測所  高エネルギー物理研究所
・500メートル球面電波望遠鏡(FAST) 国家天文台
・武漢国家生物安全研究所  武漢ウィルス研究所
・高高度宇宙線観測所  高エネルギー物理研究所
・地球システム数値シミュレータ装置  大気物理研究所
・霊長類のモデル動物表現型・遺伝研究施設  昆明動物研究所

(2)共用実験施設

 共用実験施設(公共实验设施)は、いくつかの研究領域にまたがる基礎研究の推進のために建設・運用される実験施設を指しており、中国科学院のHPでは現在下記の10の施設がこれに該当する。このうち北京電子・陽電子衝突型加速器(BEPC)は、前記の専用研究施設にも該当している。

・上海光源  上海高等研究院
・合肥放射光施設  中国科学技術大学(付属研究所ではない)
・北京電子・陽電子衝突型加速器(BEPC)  高エネルギー物理研究所(二重計上)
・定常強磁場実験装置  合肥物質科学研究院
・中国核破砕中性子源  高エネルギー物理研究所
・上海軟X線自由電子レーザー装置  上海応用物理研究所
・上海光源ビームライン実験ステーション  上海応用物理研究所
・大連コヒーレント光源  大連化学物理研究所
・高エネルギー放射光源  高エネルギー物理研究所
・総合極限条件実験装置  物理研究所

(3)公益科学技術施設

 公益科学技術施設(公益科技设施)は、中国全体の経済社会の発展や安全確保を目的として種々の情報を収集し関係機関や一般社会に配布する施設を指しており、中国科学院のHPでは現在下記の9つの施設がこれに該当する。

・中国衛星リモートセンシング地上基地局   宇宙情報イノベーション研究院
・リモートセンシング用航空機「賞状(奖状)S/II」2機   宇宙情報イノベーション研究院
・超短波標準時提供システム  国家授時センター
・東半球宇宙環境総合地上観測基地  国家宇宙科学センター
・中国南西部野生生物遺伝子バンク  昆明動物研究所
・総合海洋科学観測船「科学」号  海洋研究所
・海洋研究船「実験1」号  海南研究所 (建造には声学研究所と瀋陽自動化研究所が協力)
・航空リモートセンシングシステム  宇宙情報イノベーション研究院
・有人潜水船と母船   深海科学・工学研究所 

3. NSFC面上項目資金獲得ランキング(2019年度)

 中国の研究者にとって、国家自然科学基金委員会(NSFC)が支出する競争的な資金は大変有用である。NSFCの資金は、研究費のほか人材育成資金や基盤整備等の費用にも充当されているが、最も大きな部分は研究費一般プログラム(面上項目、general program)で、日本の科研費と似て主として基礎研究分野に配分されている。

 NSFCからの資金拠出の大きな恩恵を受けているのは基礎研究に強い大学であり、中国科学院は大学の研究に比して、応用分野により強みがある。応用分野で競争的な資金を提供しているのは主として国務院の科学技術部であるが、残念ながら各機関別での資金配分のデータを公表していない。
 そこで、このNSFC面上項目資金獲得ランキングを、中国科学院の研究所に関する重要度の尺度として用いることとした。

 NSFCが公表している直近の2019年で、獲得した研究資金額順に中国科学院の付属研究所名を列記すると、下記のとおりとなる。この表で獲得金額の単位は万元(約20万円)である。

順位研究所名件数金額
1地理科学・資源研究所553,272
2合肥物質科学研究院493,065
3生態環境研究センター493,065
4物理研究所442,764
5プロセス工学研究所412,564
6海洋研究所402,444
7大連化学物理研究所372,374
8地質・地球物理研究所362,301
9西北生態環境資源研究院352,137
10微生物研究所352,087
11動物研究所341,992
12長春応用化学研究所322,008
13植物研究所301,765
14高エネルギー物理研究所291,831
15金属研究所281,687
16福建物質構造研究所241,534
17自動化研究所231,359
18深圳先進技術研究院221,292
19生物物理研究所221,258
20長春光学精密機械・物理研究所211,266
NSFC面上項目資金獲得ランキング(2019年度)
NSFCのHPを元に林作成

参考資料

・中国科学院HP https://www.cas.cn/
・中国科学院統計年鑑2022 人民出版社 2023年2月
・国家自然科学基金委員会(NSFC)HP